ラヴ・ミー・テンダー
この間も思ったけれど、私は何か都合が悪いことを聞いているのだろうか?

そう思ったけれど、
「俺…」

武智さんが言った。

話をしてくれるみたいで、ホッとした。

「俺、家族いないんだ」

彼の口から出てきた言葉に、私は耳を疑った。

「家族がいないって、それは…」

私の聞き間違いじゃなかったら、武智さんはそう言ったはずだ。

「小学3年生の時に両親が離婚したんだ」

「そ、そうなんだ…」

聞いたのは自分のくせに、私は何を答えればいいのかわからなかった。

「父親のところへ引き取られたんだけど、父親は仕事人間で朝早くに家を出ては夜遅くに家に帰ってくるみたいなすれ違い生活だった。

授業参観とか運動会とか学校に関するイベントは興味がないって感じだった」

そう話をしている武智さんはどこか寂しそうだった。
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