ラヴ・ミー・テンダー
ダンッ!

空っぽになったグラスをカウンターに勢いよくたたきつけたら、大きな音が響いた。

「何が無理だ、バカタレが!」

私は大きな声で叫んだ。

「陽葵ちゃん、声が大きいよ」

「あんまり飲むんじゃないよ」

叫んだ私に、両隣から声がかかってきた。

「締め切りが近いんだから、程々にしろよ」

そう言ったのは、ミヤジこと宮下直治(ミヤシタナオジ)、40歳だ。

彼はイラストレーターで、私が書いている小説の表紙イラストをよく描いている。

繊細で柔らかなタッチと男女共に喜ばれるその絵柄はとても人気があり、表紙イラストの他にお菓子のパッケージやCDのジャケットなどと多くの仕事を任されている。

「振られた気持ちはわかるけどさ」

そう言ったのは、鹿島聖恵(カシマキヨエ)だ。

彼女は私の幼なじみで、高校の養護教諭をしている。
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