ラヴ・ミー・テンダー
ポカンと固まっている私に、
「へ、変な意味で聞いた訳じゃないですよ」

武智さんが慌てたように言った。

「変な意味ですか?」

それって、どう言う意味なんですか?

「…あなたのことを知りたくなった、と言いますでしょうか」

武智さんは呟くように言った後で、ハイボールを口につけた。

知りたくなったって、どこの恋愛小説なんだと思った。

だけど、私も彼のことを少しでもいいから知りたいと思っていた。

名前はもちろんのこと、年齢も好きな食べ物も。

恋をしないと宣言した私はどこ行ったんだか。

「すみません、やっぱりいいです…」

「佃陽葵です」

さえぎるように、私は自分の名前を名乗った。

「佃煮の“佃”に、太陽の“陽”に植物の“葵”で…佃陽葵です」

続けて私は言った。
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