ラヴ・ミー・テンダー
「どこか適当なところに座っててください。

すぐに飲み物を用意しますので」

キッチンに向かった私は冷蔵庫から麦茶を取り出すと、グラスに注いだ。

「どうぞ」

テーブルの前で座っている武智さんの前にグラスを置いた。

「ありがとうございます」

武智さんはコクリと麦茶を飲むと、
「あの…気がききますね」
と、言った。

「えっ?」

思わず聞き返した私に、
「いろいろと用意をしてくれて…とにかく、気がきく人だなと思いまして」
と、武智さんが言った。

「私、妹と弟がいる3人姉弟の長女で…」

「ああ、なるほど」

「子供の頃から彼らの面倒を見ていたこともあってか、つい世話を焼いてしまって…」

それで“もう女として見れない”だの“お母さんみたい”と言われて振られたのも、また事実である。
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