エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
プロローグ

かつて、人間に恋をした人魚は、海に住んでいた魔法使いに祈りました。

「どうか私に、人間の足をください」

その魔法使いは、地上では出来損ないと言われていました。
できるのは交換の魔法のみ。
魔法をかける本人とかけられる相手の同意がなければ、成就しない魔法です。
ゆえに成功率が低く、彼は他の魔法使いからバカにされ続けていました。

だけどその魔法を使って、天敵から身を隠したいと願っていた鳥と髪の毛の色を交換し、彼は青い髪を手に入れました。
長すぎる生に飽き飽きしていた亀と、命の長さを交換しました。
陸が好きなカエルと、水中での呼吸法を交換しました。
そうして海の底に住み着いた魔法使いは、人魚にはちょっとした脅威であり、近づくものはいなかったのです。


ある日、ひとりの人魚が訪ねてきました。アメジスト色の尾っぽを持つ、美しい人魚です。
彼女は魔法使いに、「人間に恋をしたので人間の足が欲しい」と言いました。

人魚の象徴である尾っぽを捨てたいと願う愚か者は初めてです。
魔法使いはついつい、楽しくなってしまいました。
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