エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

「願いを叶えるには同等の価値がいる……。彼にとって愛は、宝石と同じ価値だったのね。私は彼の気持ちを望んだけれど、彼が望んだのは私の気持ちじゃなくて、宝石のほうだったんだわ」

ベリルは何も言えなくなった。
彼の気持ちを望んだ姉の心の内を想像すれば、それはとても痛く苦しい。

「ヒューゴの心をつなぎとめようと思ったら、ずっと宝石を与え続けるしかなかった。最初はベリルのものを持ち出したわ。次はこのシンディの部屋から。そして今度は母様のものを……」

家のものとはいえ、侯爵令嬢が盗みなんてと思うと、先に恥ずかしさが湧いてくる。
シンディの必死さはわかるし、そこまでしてヒューゴの愛を求める姿勢には純粋に驚く。ベリルはそうまでして、彼に愛されたいとは思えない。今話を聞いているだけで、彼に感じていた愛情が、すっと冷えていくのを感じている。

「シンディ姉さま、プライドを忘れないで。それが社交界の華と言われた方のすること?」

「ベリル……」

涙にぬれた目でシンディはベリルを見上げる。

「お姉さまは美しくて気高くて、ほんの少しわがままで。……それが許される侯爵家の娘でしょう? 人を愛することは素晴らしいことだわ。でも溺れてはダメよ」

シンディは目を見開いて唇を震わせる。そして「変わったのね、ベリル」と悔しそうにつぶやく。
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