エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「このエメラルドは、……どうしようかしら」
シンディに託してローガンに渡すのが一番いいようにも思えるが、できれば判断を仰いでからにしたい。
我に返ったとはいえ、シンディはまだヒューゴに未練がありそうだし、名残惜しそうに宝玉を見ているので、もし彼女が再び魔石の誘惑にとらわれてしまったら……と考えると、託すのは危険だ。
「預かっておくわね。宝石箱に入れておけば、問題ないでしょう」
ベリルはそう言うと、あとで自分の部屋の宝石箱に入れるつもりでドレスの隠しに入れた。
シンディは少しばかり不満そうにしたけれど、おとなしくそれを受け入れた。
その後ふたりはドレスを交換しあい、階下へと降り、母親にはベリルが謝った。
「気が動転していたの。ごめんなさい。なくしてしまったものは返せないんだけど……」
「ベリル。あなたがそんな意地汚い娘だとは思いませんでした。侯爵家の娘が恥ずかしい。ヒューゴ様と婚約してからどうも様子がおかしいわ。しばらくは外出禁止とします。ヒューゴ様のところも行ってはダメよ」
「……はい」
不自由な身の上になったことに気は重かったが、しばらく考える時間が稼げることはありがたかった。
なにせ、考えなければならないことはたくさんある。
ヒューゴとの婚約を解消するために必要なこと、エメラルドの宝玉をどうやって城に戻すか。
(ローガン様と相談できるといいのだけど)
顔が戻った今、ベリルはもう王城には上がれない。
自分の顔に戻れたのはうれしいが、これでもうローガンの婚約者ではなくなってしまったのだ。
(ベリルになったら、……もう必要とされないかしら。でも本当の姿で会いたいって言ってくれたもの)
彼の言葉を思い出し、ほんの少し元気づけられる。
久しぶりの自分の寝室に戻ったベリルは、部屋中を見回した。
シンディによって、宝石や帽子が持ち出されてしまったようで、以前よりも殺風景な感じがする。
気に入っていたブレスレットが無くなっていて、ベリルは胸にポカリと穴が開いたような気分になる。
「なんか、凄く疲れた……」
取るものもとらず、ベリルはベッドにもぐりこむ。
久しぶりの自分のベッドに、やはり安心したのはたしかだったのだろう。その日ベリルは深い眠りについた。