エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
* * *

シンディは、ベリルから託された手紙を手に緊張していた。
社交的で自分の美貌に自信があったシンディは、どこに行ってもうまくやれると信じていた。
けれど、ベリルと入れ替わったことで、シンディはこれまでに味わうことのなかった“比較され、貶められる方の立場”を体感してしまった。人の言葉は凶器となり、シンディの自尊心を傷つけ、自信を奪いとった。
いざ自分の顔に戻っても、シンディに以前のような自信は無くなっていた。
ここ数週間の寝不足でのやつれは戻ることはなく、いつもより念入りに化粧をしても、肌がかさついていて逆に見た目が悪くなってしまった気がする。

出がけ前にベリルに励ましてもらいたかったが、彼女は疲れがたまっていたのか声をかけても全然起きなかった。
仕方なく、いつもベリルがそうしていたように、ひとり馬車に乗り込んで王城へと向かった。

馬車が王城の門をくぐったあたりで、彼女の緊張は最高潮に達していた。
シンディは侯爵家の令嬢だから、いつもなら誰かしら付き添いの人間がいる。何が起きても、相談すれば一緒にいる誰かがなんとかしてくれたから、困ることなどなかった。それはなんて心強いことだったのだろうと、シンディは今になって実感する。

(そういえばベリルは、ひとりで孤児院に行ったりしていたわね。あの子がひとりの行動を好むのは、社交的じゃないからだと思っていたけれど、それが精神的な強さを育てたのかしら)
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