エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「どうしました? まだ本調子ではございませんかな」
「……すみません。休憩させていただいてもいいですか」
ベリルはこれを全てできていたのかと思うと、これまで彼女に感じていなかった畏敬の念が湧いてくる。
彼女が言っていた、ベリルの良さはおそらくこれだ。根気強さと、真面目さ。それはシンディが持ちえないものだ。
シンディは休憩がてら散歩することにした。
ひとりでは不安なのでドナを連れて歩く。すると向こうから、一人の男が近づいてきた。
「これはシンディ様。ご機嫌麗しゅう」
礼儀正しく頭を下げられて、シンディは口ごもる。
相手は明らかに自分のことを知っているし、おそらく“シンディ”も知っているはずだ。名前を呼ばなければ失礼になるかもしれない。
「ご機嫌よう。今日はいい天気ですわね」
しかし見当違いな名前を呼ぶわけにはいかない。シンディはごまかすようにほほ笑んだ。
すると相手も何かを感じ取ったのか、「今日はいつもと感じが違いますね」と告げた。
「ええ。でもこれが本来の私の姿ですわ」
カマをかけるつもりでそういうと、彼は口もとを緩めて、応じた。
「昨日は大丈夫でしたか? 何やらお屋敷で騒ぎがあったとバートが申しておりましたが。……ベリル様もお変わりなく?」
「ええ。……そうですわ! ベリルから預かりものがありますの。……コネリー様?」
確認のつもりで名前を小さく呼ぶと、彼はにこりと笑ってそれを受け取った。どうやらこの男がコネリーで間違いないらしい。
「確認してまた連絡が欲しいそうです」
コネリーに手紙を渡したことで、とりあえず課題がひとつ終わったとホッとした。シンディは晴れやかな笑顔になり、コネリーに頭を下げる。
「妹のこと、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします」
ふたりは離れ、それぞれに歩き出す。
ドナは王太子の婚約者と側近の親しげな会話に、少しばかり猜疑心を持ったようだったが、敢えて何も言いはしなかった。