エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ベリルは慌てて身支度を整え、二階の廊下に出た。
一階ホールでは、執事を間に挟んで、母がヒューゴと話していた。その雰囲気は、やや険悪だ。
「なにしにいらっしゃったの? ヒューゴ様」
「なにって……ベリルに会いに参りました。彼女は?」
「悪いけど、しばらくベリルとは会わないでもらえるかしら。あの子が変わったのはあなたと婚約してからだわ。社交的になったと最初は喜んでいたけれど、それも一時のこと。今度はどんどん余裕がなく、すさんだ目をするようになった。加えて、態度も反抗的になって……一体あの子との間になにがあったの」
「侯爵夫人。なにか誤解があります。僕はベリルを愛しています」
「あなたが好きなのは侯爵家の家柄でしょう。シンディがだめならベリル。簡単に乗り換えたじゃありませんか」
ベリルは思わず足を止める。そして、階段の桟から体を乗り出して、ヒューゴの顔を見つめた。
彼は眉を寄せ、大きな手ぶりと傷ついたような表情で、母に自分の想いを訴えている。けれど、こうして離れた位置から見ると、どこか悦に入った演者のようにも思える。
瞳はあたりを観察するように動いて、どの動きが一番映えるのかを、冷静に計算している。
俯瞰の位置から見つめているからこそ、そして彼への熱情が覚めた今だからこそ、ベリルは、彼の体当たりの演技が見分けられるようになったのだ。