エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「もちろんシンディのことだって愛していました。ですが反対なさったのはあなた方ではありませんか。僕は泣く泣く彼女を諦めたんです。そして妹のように思っていたベリルの健気さに触れ、改めて恋をしたんです」
「たしかに、あの子はあなたに恋をしていたでしょう。もとより、社交的な娘ではありませんもの。私も、あの子が唯一まともに話すのがあなただからこそ、縁談を認めたのです。でも、結果ベリルは私の宝石まで盗むようになった。あなたが宝石を持って来いと言ったんでしょう? あの子は昔から着飾ることには興味がなかったの。だからあなたの指示以外にそんなことをするわけがないわ」
ベリルは母の後ろ姿を高い位置から眺めながら、不思議な気分になった。
着飾らず、口下手なベリルを、母は疎ましく思っていたはずだ。だけどそれはベリルの個性として、ちゃんと受け止められていたのだと気付く。
不思議と勇気づけられた気分で、ベリルは立ち上がった。
「お母様、ヒューゴ様」
上からの声に、ふたりははっと顔を上げた。ベリルはゆっくりと階段を下り、母の隣に立った。
「ベリル! どうも侯爵夫人は誤解している。弁明してくれないか。僕らは愛し合っているって」
「そのことですが……ヒューゴ様。私、あなたとの婚約を解消させてほしいと思っているの」
「ベリル? いきなり何を言い出すんだ」
ヒューゴは焦ったようにベリルの右腕を掴み、自分のもとに引き寄せた。