エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
数分後、ベリルはヒューゴとともに伯爵家の馬車に揺られていた。
向かいに座っているヒューゴは、背もたれに背中を預け、膝の上に手をのせたまま、貧乏ゆすりのように足をせわしなく揺らしている。
「ヒューゴ様、一体姉さまになにがあったの?」
「さあ、ひどく焦った様子で、君のことを探していたんだよ。それよりベリル、さっきの婚約解消って本気じゃないんだろ? 君は僕のことを好きだと言ったいたじゃないか。僕のためなら何でもすると」
「そのことですけど……、もう私、あなたには何も渡せません。あなたは私が好きなんじゃない。宝石や細工物……賭けカードの景品になるようなものが欲しいだけなんでしょう?」
彼の足の動きが止まり、気になって彼の顔を見上げたベリルは、その表情を確認してぞっとする。
彼の顔からは柔らかさが完全に抜け落ちていたのだ。
「ヒューゴさ……ま」
「……何を言ってるんだ? ベリル。言っただろう? 僕らは夫婦になる。だから君のものは僕のものだ。賭けカードはね、僕の収入の一部だ。いわば投資だよ。君の使い古しのその宝石が、何倍もの金額に変わるんだ。僕が潤えば君だって助かるだろう? そうだ。あの宝玉はどうした? ほら、シンディが君に渡したエメラルド。あれでいいよ。あれをよこせよ」