エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ベリルは肩を強くつかまれた。エメラルドはドレスの隠しポケットに入っている。しかし、このエメラルドはこれは王家に返さなければ。ヒューゴの私欲のために利用されるべきものではない。
なんとかして隠し通さなければ。

「ここにはないわ。それより、あの宝石はなんなの? あの宝石からは変な声が聞こえるのよ」

「シンディもそう言ってたな。僕には聞こえなかったが、ふたり揃ってそう言うなら、やはり願いが叶うという言い伝えは嘘じゃなかったわけだ。……まさかシンディが望んだものが王太子妃の座だとは思わなかったけれど」

ベリルを掴んでいたヒューゴの力が緩んだすきに、さっと離れたベリルは、馬車の座席の端に寄って彼を警戒した。彼の言葉に、引っかかりを感じて聞き返す。

「……何を言っているの? ヒューゴ様」

ヒューゴの目は暗く、うろんでいる。

「僕は、シンディとの結婚を望んでいた。だけどどう頑張っても、侯爵には認めてもらえなかったんだ。シンディは駆け落ちしたっていいといったが、それでは生活は立ち行かない。僕はどうにかして侯爵を納得させたかったんだ。……だから、細工してあの日の賭けポーカーを彼女に勝たせたのに」

「姉さまにあのネックレスが渡るようにしたのは、ワザとだったの?」

どうしてそんな手間をかけるのか分からない。シンディに渡したいなら、当時恋人だったヒューゴには贈る理由だってあっただろうに。
ベリルは息をのんで、彼の次の言葉を待った。
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