エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「姉さまは駆け落ちしてもいいって思っていたはずだわ。あなたが逃げようと言ってくれれば、きっと姉さまは手に入ったのに」
「駆け落ち? そんなの無意味だ。駆け落ちしてどうやって生きていくんだ。あのシンディに貧乏暮らしができると思う? 僕だって、頭脳労働はできても肉体労働には向いていない。シンディは現実が見えていないんだ。僕らが幸せになるには、侯爵に結婚を認めさせる以外にはなかったんだ」
「それは……」
そうかもしれない。でもそれは本当に愛なのだろうか。豊かな暮らしという前提がなければ実らない愛なんておかしい。
「そんなのおかしいわ。ヒューゴ様が言っていることは、逃げる勇気がなかったことへの言い訳みたいに聞こえる。そうよ。あなたはすべてを捨てる勇気がなかったんだわ!」
次の瞬間、ベリルは頬の痛みと殴られた衝撃で馬車の椅子から転げ落ちた。
頬を押さえ見上げると、ヒューゴは真っ赤な顔をして拳を握り締めている。
「……なんて生意気なんだ。夫に口答えするなんて」
「あなたは夫じゃない! 婚約破棄をすると言ったじゃありませんか!」
「冗談じゃない。シンディに去られ、君までいなくなったら、僕の人生は終わりだ!」
激高したヒューゴから逃れようと、ベリルは小窓に寄った。しかし、外の景色を見て体中の血が下がったような感覚に襲われた。毎日見ていた、王城への道筋とは違う。建物がまばらで、木々が多い。城下町の中心部からはずいぶん外れているようだ。