エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「ここはどこ……? 姉さまが呼んでるなんて……嘘だったのね?」
「全てが嘘ではないよ? 今日は城でシンディと会った。君の話もしたよ。ベリルはもう、僕に会いたがらないと言われた。……侯爵邸に行って納得だよ。侯爵夫人も君も、昨日までとは打って変わって冷たい態度だ。だが、このまま婚約解消するなんて言うのなら……、僕にも考えがあるよ」
「考えって何? 私は目が覚めたのよ。あなたは私を愛していない。私も……そうだわ。だったら、この結婚には何の意味もないわ。侯爵家にとっては」
「そうだね。だけど、伯爵家にはある。ずっとシンディと結婚することを夢見ていたんだ。相手が君になったのは少し残念だが、それでもかまわない。シンディでなければ、誰でも同じだからね」
ヒューゴはベリルの初恋だった。今は気持ちが冷めたとはいえ、こうして、ベリル個人ではなく“侯爵家の令嬢”という肩書だけで見られていたことを突き付けられると、胸が刻まれるようだ。
「婚約は破棄します。絶対に。父や母も認めてくれると思うわ」
「どうかな。たしかに侯爵家の娘である君は政略結婚の駒としての利用価値があるだろうけれど、その君に傷物っていう噂がたったら、もう貰い手は現れないだろうね」
不穏な言葉に、ベリルは身を固くする。
「何をするつもり?」
「何もしないよ。僕も被害者だ。これから、僕らは賊に襲われるんだ。君はさらわれ、僕は怪我を負う。だが僕はなんとか君を見つけ出し助け出す。しかし君は、暴漢によって汚されているんだ。……そうなれば、他に誰が君を娶ろうとすると思う? 僕だけだ」
すらすらと筋書きを並べ立てられ、怖気が立つ。