エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「オーナーは俺でいいな?」
ヒューゴはにやりと笑うとみんなの顔を確認するように見つめ、カードを切り始めた。
彼はギャンブルが好きなのだ。優しい彼の唯一の欠点。ひとたび賭けが始まるとそれにのめり込んでしまう。
「じゃあ配るぞ。みんな配当金を出して」
「はい」
「ほら」
カードと交換するように皆が銀貨を並べていく。ベリルも差し出されたが、首を横に振った。
「私はいいです。手持ちがあまりないし。ネックレスも欲しくないもの」
「そう? 楽しいのよ? たまには混ざればいいのに」
「ごめんなさい」
ベリルは苦笑して立ち上がり、奥に席を移した。書棚があったので、そこから本を借り、パラパラとめくりながらギャンブルに興じる姉たちを眺めた。途中、メイドが飲み物をもってやって来たので、軽食をとってきてくれるように頼む。
「そういえばご存知? 城に泥棒が入ったんですって」
ソフィアがカードから目を離さないまま呟くと、シンディは顔をあげ眉根をよせた。
「まさか、王城の警備を潜り抜けることなんてできるわけがないわ」
「本当よ。騎士団副長をしているお父様から聞いたんだもの。宝物庫にしまわれていた宝石が盗まれたそうよ」
そんなニュースは聞いたことがない。まあ、城に賊が進入したなんて不名誉をみすみす漏らす騎士団員もいないだろうが。