エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「君は変わったな。前は口答えなどしなかったのに」
「……」
ベリルは答えなかった。ヒューゴはいらただし気に足踏みをし、フェンレイにベリルを連れて行くように言った。
屋敷の中は汚れてはいたが、人が住めるくらいには整えられていた。
「ここに入ってろ」と入れられたのは、薄暗い部屋だ。窓はあるが、内側から板で打ち付けられていて、ベリルの力では開けれそうにない。
古ぼけたソファが置いてあるから、かつては応接室として使われた部屋なのだろう。
「アンタの世話をする人間が必要だな。……おとなしくしてな。見張りを用意したらロープも外してやるから。俺はもう少し旦那と話があるからな」
フェンレイはにやりと笑うと扉を閉める。彼が移動する音が遠ざかったところで、ベリルの瞳から涙が零れ落ちた。
頬が痛い。血の味がする。恐怖が全身を支配していて、涙は出ても声が出ない。全身が震えて、歯がカチカチと音を立てる。
おそらくヒューゴはこれからフェンレイと賊に襲われたように偽装工作をするのだろう。ベリルを妻とすることは諦めていないようだから、やがて救世主のふりをして再びここに戻ってくるのだろう。その間に、ベリルはフェンレイによって喉をつぶされてしまうのかもしれない。余計なことを言えないように。
「いや、……怖い」
フェンレイは大柄で力も強そうだ。女の力で敵うとは思えない。