エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「ベリル殿には婚約者がいたのですか」
「……ヒューゴは私の恋人だったの。なのにお父様はベリルとの婚約を結んだ。……だから私、願ったのよ。エメラルドに、そうしたら私とベリルの顔が入れ替わったの」
コネリーとバートには入れ替わりのことを知られているとベリルが言っていたので、シンディは軽い気持ちで内情を暴露する。
「ベリルのままでいれば、ヒューゴと結婚できると思ってた。今考えると、あまりにも考えが狭量だったのね」
苦笑しながら言ったが、バートは難しい顔をしていた。
「どうかしました?」
「いえ……そのエメラルドは、どこから入手されたのですか?」
「ヒューゴからもらったのよ」
本当は賭けカードの景品だけど、というのは内緒にしておこうとひそかにシンディが考え、顔を上げる。
すると目の前のバートの眉間に深いしわが寄っていた。
「ど、どうなさったの?」
「シンディ様。申し訳ありませんが、馬を一頭かしていただけませんか。急ぎ、ローガン様に報告したいことができました。シンディ様はこちらの馬車を自由にお使いください。御者にはそう言い含めておきます」
「え? ええ」
「では」
バートはそのまま侯爵家の敷地内に入り、驚く馬番を尻目に、鞍のついていた馬に乗り込んで駆け出した。
「シンディ様、今のは一体」
馬泥棒を追い駆けてきた馬番は、屋敷の令嬢の存在に気づき、駆け寄る。
「あの方に馬をお貸ししますと言ったのよ。いずれ戻ってくるから心配しないで。お父様にもそのように言ってちょうだい」
シンディはそう言うと、馬車に再び乗り込んだ。
「申し訳ないけれど、アシュリー伯爵邸に向かっていただけるかしら」