エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「こんなことをしてあなたの手にはなにが残るの? ヒューゴ様がそれを望んでいるなら、ヒューゴ様にさせるべきよ。なぜあなたが罪をかぶるの」
「は? あんたもお貴族様だろ? 平民なんて駒だと思ってるんだろう? 平民が貴族の命令を断れるわけがないだろうが。どんな泥仕事だろうが、引き受けなきゃ旦那に殺されるだけだ」
「あなたは自分が殺されるのを恐れて自分の心を殺すの?」
ベリルの問いかけに、フェンレイは頬を引くつかせた。右腕を振り上げられて、ベリルは殴られるのを覚悟して目をつぶる。しかし、その拳はなかなか下りてはこなかった。
そのうちに、玄関の方から何度も扉をたたく音がする。
最初は無視していたフェンレイだが、あまりに続く音に舌打ちをし、立ち上がった。
「逃げようなんて思うなよ」
再び扉を閉めて走っていく。
とりあえず自分の身の危険がいったん去ったことで、ベリルは大きく息をついた。
扉をたたく音はとまり、話し声が聞こえる。
ベリルは聞き耳を立てたが、内容まではよく聞き取れない。ただ、声を荒げた様子はないので、ヒューゴが戻ってきたのかもしれない。
(どうしよう……)
相手がふたりになれば、今度こそ力で押さえつけられる。
喉をつぶされて言いたいことも言えなくなり、賊に汚された娘として後ろ指をさされながら、ヒューゴの嫁にされるのだ。
(そんなの駄目よ。どうにかして、抜け出さなきゃ)