エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ベリルは勇気を奮い立たせて立ち上がる。腕は縛られたままだが、扉が開いた瞬間に体当たりすれば、一人は撃退できる。その隙に、できるところまで逃げよう。
捕まるかもしれないけれど、もう自分から諦めたくはないのだ。
何をやっても姉に劣る、ダメなベリルのままでいたくない。例え本当に敵わなくとも、いつかを夢見て努力する自分でありたいのだ。
話し声が近づいてきて、ベリルは扉の脇に立ち、身構える。
しかし、聞こえてくる声には聞き覚えがあった。
「なんだか力が入らねぇんだ。おまえが来てくれて助かったよ、ダレン」
「ちょっといろいろあってな。アジトを変えずにいてくれて助かったよ」
その声は知っている。何度も話し、そのたびに好感を寄せた彼のもの。
(まさか……ローガン様?)
軋んだ音を立てて、扉が開く。
そしてすぐにベリルの姿を見つけたダレンことローガンは、微笑んで見せたと思ったその瞬間、うしろに立つフェンレイの腹めがけて肘鉄を食らわせ、そのまま足で体を蹴り倒した。
「うわっ」
「ベリル殿、下がって。フェンレイ、おとなしくしろ」
更に上から覆いかぶさり、胸元から取り出したナイフを突きつける。
「ダレン、お前、……裏切ったのか?」
「最初にダレンをおとりにして逃げ出したお前が言うのか?」
上着に隠してあったロープを取り出し、抜け出せないように複雑に結んでいく。
そうしてフェンレイを拘束した彼は、すぐさまベリルの側によって、彼女の手に付けられたロープを切り、両手で頬を包んだ。