エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

「これは……」

お互いが取り出して見せ、その光を合わせる。するとより一層強く光り、ベリルとローガンの脳内に、男の声が語り掛けてきた。

【君たちの願いは何だい?】

エメラルドが互いに惹かれ合っているのがわかる。
元はひとつだという宝玉は、ひとつになることを望んでいるのだ。

「……この宝玉を元の形に戻してほしいんです」

「俺は自分自身に戻りたい。全てを元の形に戻して、魔石の力を封印したい」

「そして……自分の力で、愛する人と歩みたい」

最後には、ふたりの言葉が重なった。
その瞬間、強い光がエメラルドから四方へ飛びたった。

ベリルは体にみなぎっていた力が失われたのを感じた。そして顔を上げると、目の前にいるローガンの顔が、光り輝くような美しいものに変わっていたのだ。

「ローガン様、お顔が」

「戻っている? 戻れたんだ!」

ローガンは自分の頬を撫でつけ、そしてベリルの肩をつかむ。

「君のおかげだ。ベリル。君がいてくれたから俺は……」

「私だけではないです。これはきっと、ふたりで願わなければだめだったんです」

ベリルが微笑み返すと、ローガンは照れたように一瞬目をそらした。
そして一度咳ばらいをすると、背筋を伸ばしてまっすぐに彼女を見つめなおす。

「ブラッドリー侯爵令嬢ベリル殿。様々な困難が待ち受けていることはわかっているが頼みがある。どうかこの俺の妻になってほしい。……俺は君を、愛しているんだ」

突然の告白に、ベリルの頭は一瞬真っ白になる。けれど答えは、もうだいぶ前からベリルの心の中にあった。

「はい。私もあなたをお慕いしております」

ローガンの婚約者はシンディだ。それを覆そうとすれば、さまざまな障害があるだろう。それでも、ローガンとの未来を歩みたいとベリルは願う。

もう、姉には敵わないと縮こまっているベリルではないのだ。
自分を輝かせるのは、他ならぬ自分の心次第なのだと、もうベリルは知っているのだから。
< 140 / 186 >

この作品をシェア

pagetop