エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「これは……」
お互いが取り出して見せ、その光を合わせる。するとより一層強く光り、ベリルとローガンの脳内に、男の声が語り掛けてきた。
【君たちの願いは何だい?】
エメラルドが互いに惹かれ合っているのがわかる。
元はひとつだという宝玉は、ひとつになることを望んでいるのだ。
「……この宝玉を元の形に戻してほしいんです」
「俺は自分自身に戻りたい。全てを元の形に戻して、魔石の力を封印したい」
「そして……自分の力で、愛する人と歩みたい」
最後には、ふたりの言葉が重なった。
その瞬間、強い光がエメラルドから四方へ飛びたった。
ベリルは体にみなぎっていた力が失われたのを感じた。そして顔を上げると、目の前にいるローガンの顔が、光り輝くような美しいものに変わっていたのだ。
「ローガン様、お顔が」
「戻っている? 戻れたんだ!」
ローガンは自分の頬を撫でつけ、そしてベリルの肩をつかむ。
「君のおかげだ。ベリル。君がいてくれたから俺は……」
「私だけではないです。これはきっと、ふたりで願わなければだめだったんです」
ベリルが微笑み返すと、ローガンは照れたように一瞬目をそらした。
そして一度咳ばらいをすると、背筋を伸ばしてまっすぐに彼女を見つめなおす。
「ブラッドリー侯爵令嬢ベリル殿。様々な困難が待ち受けていることはわかっているが頼みがある。どうかこの俺の妻になってほしい。……俺は君を、愛しているんだ」
突然の告白に、ベリルの頭は一瞬真っ白になる。けれど答えは、もうだいぶ前からベリルの心の中にあった。
「はい。私もあなたをお慕いしております」
ローガンの婚約者はシンディだ。それを覆そうとすれば、さまざまな障害があるだろう。それでも、ローガンとの未来を歩みたいとベリルは願う。
もう、姉には敵わないと縮こまっているベリルではないのだ。
自分を輝かせるのは、他ならぬ自分の心次第なのだと、もうベリルは知っているのだから。