エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「姉さまのせいじゃないわ。すべてはエメラルドの魔石が起こしたことだもの」

「でも望んだのは私だわ。入れ替わりたいと。そうまでしてほしかったヒューゴの愛は、……本物ではなかった」

「姉さま」

「……目が覚めたわ。あの人は決して、わたし個人を望んでいたわけじゃなかった。侯爵家のシンディだからこそ愛を語ってくれたのよね」

当初はそうではなかっただろうとベリルは思ったが、せっかく彼を吹っ切ろうとしている姉を思えば、余計なことを言わない方がいいと思えた。

「私の目を覚ましてくれたのは、ベリルの言葉よ。『絶対に見捨てない』って言ってくれたでしょう? 嬉しかった」

「姉さま」

「私もあなたを絶対に見捨てないわ。大切な妹だもの」

ベリルは感激して彼女を抱きしめ返す。まるで、昔の屈託なく遊んでいたころの姉のようだ。

「嬉しいです。私も姉さまの幸せを信じてます。ヒューゴ様より、姉さまにふさわしい方が絶対に現れ……」

ベリルの脳裏にローガンの顔が浮かぶ。
美しく社交的なシンディに夫もふさわしいのは、ローガンだ。ベリルが、心の底から一緒にいたいと思う男性。彼が、誰もが納得する姉の婚約者なのだ。

切り刻まれるような胸の痛みに、ベリルは口もとを押さえる。
泣いてしまいそうなベリルに、シンディは「どうしたの? 具合がわるい?」と心配そうに問いかける。

「大丈夫です」

ベリルは何とも言えなくなってしまって、ソファに座ったままうつむいた。
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