エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「お母さまが心配しているといけないから、私、広間のほうに顔を出してくるわ」
「そうね。そろそろ夜会も終わる時間ね。ベリル、お願い」
ベリルが広間に戻ると、ちょうど母親が娘たちを探しているところだった。
「まあ、どこに行っていたの? シンディは?」
「奥でカードを楽しんでいたの。シンディ姉さまももうすぐ来るわ」
「そう。馬車の用意ができているわ。伯爵様にご挨拶をして帰りましょう?」
話しているうちに、ヒューゴにエスコートされたシンディがやって来る。
「まあ、どうしたの、この宝石」
「ヒューゴにいただいたの。きれいでしょう?」
「いただいたって……シンディ、あなた」
「シンディの美しさを引き立てるものです。僕が持っていても無用の長物ですよ。ブラッドリー侯爵夫人」
人好きする笑みを向けられて、侯爵夫人は少し考え込んだが黙った。
「まあ、いいわ。今度お礼の品を贈らせていただくわね。さあ、帰りましょう、ふたりとも」
侯爵夫人はヒューゴに冷たいまなざしを向けたまま、挨拶を済ませ、屋敷を出る。
コートを着込んだシンディからはもう首飾りは見えない。けれど、彼女は首飾りのあるあたりを大切そうに押さえたままだ。
「シンディ姉さま、何をお願いするの?」
ベリルが小声で聞くと、シンディは茶目っ気たっぷりに片目をつぶり、口元に指をあてたまま言った。
「昔からの願いごとよ」
それきり、シンディも語ることはなく、侯爵夫人も不機嫌そうに黙り込んだままだ。ベリルもひとりで話す気にはならず、ドレスの刺繍を眺めながら黙っていた。