エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
夜会明けの翌日は朝が遅い。
昼近くになって起きだしたベリルは、食堂に人相書きがあるのに目を止めた。
「これは……?」
卵型の輪郭、鋭い目つき、栗色の髪。
書かれている特徴を見て、既視感に襲われる。
「どこかで見たような……」
「まあ、お嬢様。お目覚めでしたか」
休憩をしていたらしいハウスメイドがベリルの姿を見て慌ててやって来た。
「ただいまブランチの準備をいたしますね」
「ありがとう。……ところで、これはなあに?」
「昨晩、旦那様が持っていらっしゃったものです。詳しくは分からないのですけど、人探しでもされているのでしょうか」
ベリルは、ふと昨晩、うとうとしながら聞いた姉とソフィアの話を思い出す。
たしか、城に賊が入って、まだ捕まっていないということだった。しかも、居合わせた王子様が怪我をしたらしい。
だとすれば犯人の人相書きだろうか。
騎士団が王城の塀を取り囲んだのに、犯人を見つけることはできなかったという。であれば、男がまだ城の中にいる可能性だってあるのだ。
重臣である父は、毎日のように城に通っているのだから、注意と通報を促すために、人相書きが配られてもおかしくない。
(でもこの顔……どこかで)
絵に描かれている口もとのホクロを見て、ベリルははっとした。
この目つきの悪さは、昨日孤児院の近くで転びそうになったのを助けてくれた男に似ているのだ。