エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「もちろん、君ひとりにすべて押し付けるつもりはない。俺もきちんと母上と話すし、君といることで俺が幸せなことを分かってもらうよう心を尽くすよ」
「はい」
ローガンのその気持ちがうれしくて、自然に顔が緩んだ。それを嬉しそうに見ていたローガンは傍にいるベリルでさえ聞き取れない音量でつぶやいた。
「君のそういうところが……」
「なんですか?」
ベリルは、彼の口元にすこしでも近づこうと耳を寄せる。
とその瞬間、耳に小さなリップ音がした。思わず耳を押さえて後ずさると、ローガンが獲物を追い詰めた猫のように、嬉しそうにベリルを見下ろしている。
「そう逃げないでほしい。つい。君がかわいくて」
「……っ!」
言われ慣れない言葉に、ベリルはもうどういう顔をしたらいいか分からない。
彼の笑顔があまりにとろけそうなほど甘くて、金縛りにあったように身動きが取れなくなる。
「早く君を抱きしめたい。君と語らえる日々はどんなに楽しいだろう」
「ローガンさ……」
その先の言葉は、彼の息で吸い取られた。ベリルは目を閉じ、彼の息遣いを感じるのに集中した。
ベリルも、ローガンと話すのが楽しかった。だけど話さなくとも今は幸せだ。
愛している人とのキスは、こんなに心を満たしてくれるものだと、この日ベリルは初めて実感した。