エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ブラッドリー侯爵家では、既に恒例となりつつある娘と父のケンカ腰のやり取りが続いていた。
「駄目だ、駄目だ、駄目だ。お前は侯爵家の娘なんだぞ? 器量もいい。頭だって悪くない。それを伯爵家の次男にだと? ローガン様もなにを考えているんだ。お前はそれで納得しているのか!」
シンディを前にするとき、ブラッドリー侯爵は機嫌がいいか悪いかのどちらかだ。シンディはもう、父親の冷静な調子のときの声を覚えていない。
こっそり耳を押さえていた指をそっと外して、シンディは呆れた調子で答える。
「納得もなにも……仕方ないじゃありませんか。コネリー様が私を気に入ってくださっただけではなく、ローガン様もベリルのことを気に入っておられるのですもの」
「それがおかしいというのだ。いつベリルがローガン様と知り合う機会があったというのだ」
疑問や不満があるなら、本人たちと話したときに言えばいいのだ。
屋敷に戻ってきてからグチグチ文句を言われても困る。
「さあ。お忍びで街に下りたときにでも出会ったのではありませんか? いいじゃないですか。私じゃなくたって、ベリルが王太子妃になるなら、侯爵家としては問題ないでしょう。べつに私が何かして嫌われたというわけじゃないんですから、いちいち文句をつけられても困ります。それにコネリー様はローガン様が一番信頼している側近でしょう。爵位がないというだけで、能力は保証されているではありませんか」
「爵位がないのが問題なんだ! 仮にも侯爵家の娘が」