エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
それからひと月後、ブラッドリー侯爵家には近隣の若い男女が集まっていた。
広い庭のところどころに明かりをともし、バルコニーに続く窓を開け放った開放的なパーティーだ。
侯爵が持つ人脈により、国の主要な貴族の子息子女がここに集まっていると言っても過言ではない。
そのため、屋敷の塀をめぐるように警備のものも等間隔で配置されている。
「これは、ひときわ美しいバラですね」
後ろからの声に、シンディは振り向いた。そこにいたのは正装したコネリーだ。いつもの副官然とした落ち着いた装いとは違い、上着には紺地に金糸で刺繍が施され、華やかだ。
思わず見とれてしまったシンディは、気恥ずかしさから肩をすくめて見せた。
「ごきげんよう、コネリー様。こんなに暗いのに庭のバラなんて見えます?」
「例えですよ。美しいバラのようなシンディ殿。お久しぶりですね。お会いしたかった」
シンディの手を取って、おもむろに甲に口づける。今まで出会った誰よりも、そのしぐさを自然にやってのける人だとシンディは思う。
「さすがブラッドリー侯爵家の夜会ですね。そうそうたるメンバーだ」
コネリーの視線の先には、王家の分家筋であるローゼンズール公爵家の長男、トレローニー侯爵家の次男、ウェルズ伯爵の長男などがいる。とはいえ、すでに父が持ってきた縁談で一度は顔を見合わせている相手であり、シンディとしては既にお断りしている相手だ。