エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
(でも、あの人の髪は栗色じゃなかった気がする。フードをかぶっていたから、良くは見えなかったけれど)
きっと人違いだ。
ベリルはそう思うことにした。でなければ怖すぎる。泥棒に出会ったなんて。
(それに、そんなことできそうな人じゃなかった)
目つきこそ悪かったが、助けてくれたり、わざわざ戻ってきて服を汚したことを詫びてくれたのだ。悪い人間ならばそんなことをするはずがない。
「お嬢様、パンはいくつ召し上がります?」
メイドの声に我に返り、ベリルはぎこちない笑顔を浮かべた。
「ひとつでいいわ。ありがとう。シンディ姉さまは?」
「今日はまだお休みでございます」
運ばれてきたスープに口をつけながら、もう一度人相書きを見る。
「きっと……別人よ」
朝とも昼ともつかない食事を終えようとしたとき、シンディが起きてきた。
寝間着にガウンを羽織った格好で、どうも冴えない顔をしている。いつもの華やかさも半減していた。
「おはよう、ベリル」
「おはよう、姉さま……。どうしたの?」
「どうって?」
「クマができているわ」
シンディの目元がうっすらと黒くなっている。昨晩は遅かったとはいえ、朝がゆっくりなのだから寝不足ということもないだろうに。