エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「父がメンツを保つために呼んだのでしょう。付き合わされて、あの方々もお気の毒だわ」
ウェルズ伯爵子息に関しては、先日婚約していたはずだ。
こんなところに顔を出している場合ではないだろう。
見境なく身分の高い男性を呼んだ侯爵の意図は、シンディには手に取るようにわかる。
「あなたに、身の程を知れと、圧をかけているんだと思うわ」
シンディは社交界に出てから、常に人の輪の中心にいる。和やかそうな集まりに秘められた思惑や悪意に気づかないほど愚かでもない。
そしてそれに気付かぬふりをしてふるまえるくらいには、したたかだ。
称賛を受け光の中にいた物知らずな娘と思われがちだが、シンディは暗い影も見つめた状態でここに立っている自覚はある。
ほら、性格が悪いでしょう?とコネリーに視線を向ければ、彼は楽しそうに口の端をゆがめた。
「この程度で圧になるとお思いなんですね。いやはや、侯爵もなかなかかわいらしい方だ」
シンディはぎょっとする。あの父親をかわいい呼ばわりする男など見たことがない。
「あなた……それはさすがに不敬では」
「そうですね。失礼しました。ですが、本当に……こういう目に見える地位を求める人は実はそれほど怖くないんですよ。私の後ろにはのちの国王陛下がいますしね。必要な地位はしかるべき時にいただけることになっていますが……現時点では、あまり兄を刺激したくないんですよ」