エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
シンディはハッとする。
言われてみれば、コネリーが次男なのだから当然ビアズ伯爵家を継ぐ長兄がいるはずだ。こんなに優秀な弟がいたとしたら、気になって仕方ないだろう。
シンディだって、ベリルが実はとても努力家で優秀だと気づいてからは、少しばかりの劣等感を持つようになった。意識しだしたら、比べられることが怖くなる。
「私が怖いのはむしろシンディ様本人ですね。あなたはどうもひとりを思うと一途な質のようだ。こういう方の気持ちを動かすのはなかなか難しいので」
ほう、とため息交じりに言われて、シンディはむずがゆいような、恥ずかしいような落ち着かない気持ちになる。
たしかに、ヒューゴしか見えていないときはあった。だけどさすがに今回の逮捕劇は衝撃だった。既にヒューゴへの気持ちは冷めているというのに、彼の目にはまだ、他の男を追っているように見えるのか。
「シンディ殿。良ければ踊りませんか?」
誘いは、コネリーからではない。
かつて、縁談を断ったことのあるジャック・ダックワース侯爵子息だ。
家柄ばかりが良くて、誉め言葉にもバリエーションがなく、会話をして楽しいタイプではなかった。
大体、他の男性と話しているときに、突然踊りの誘いで横入りしてくる時点で自分勝手としか思えない。
「ジャック様。ご無沙汰しております」
「相変わらずお綺麗だ。王太子様との破談は残念でしたね。あなたのような美しい女性を袖にするなんて、王太子様も罪なお人だ」
「袖にされたわけではありませんよ。ただ、ローガン様に運命の出会いが訪れたというだけです。シンディ様のことは、大変美しく華やかで機転のきくかただと評しておりました」