エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
それでもコネリーの表情に大きな崩れはない。
心配そうなシンディの視線に気づいたのか、こちらを見て緩やかに笑う。
それで、シンディの心臓は爆発してしまいそうになった。

「シンディ殿。コネリー殿はローガン様の側近とは言え、伯爵家の次男です。実はお父様から内々にお話をいただいております。もう一度、私との結婚を考えていただけませんか?」

ジャックが耳元で囁いた。
父親のやりそうなことだ、とシンディは思う。
侯爵家との縁談が決まったとなれば、ビアズ伯爵家側としては身を引くしかなくなる。

シンディは踊りの途中だが足を止めた。そして、ジャックの胸に手を当て、悠然と微笑みかける。

「遠慮しておきますわ。あいにく、貴方の言葉には心が動きませんの」

声を荒立てるのは相手のプライドを傷つける。だから微笑んだまま、胸をそっと押し、彼から離れる。
周りの人々は、踊りの途中で消えたシンディに一瞬目を向けたが、その顔に笑みが浮かんでいるのを見れば何もないようにまた踊りだす。

部屋の端に戻るまでの間に、何人かの男性に踊りに誘われた。けれどシンディは、微笑んだまま断り、ただまっすぐにひとりの男のもとへと向かう。

「シンディ、どうしたんだ? 踊らないのか?」

父が目を細めて両手を広げる。
シンディはその脇をすいとすり抜けて、コネリーの前に立った。
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