エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「シンディ殿?」
「あなたと踊るわ。これがラストダンスよ」
目の前のコネリーが驚きの表情から一転、噴き出した。
夜会は始まって三十分しか経っていない。父は焦ったように、「シンディ、なにを」とうしろから腕を掴んできたが、シンディは軽く振り払った。
「お父様はいつも矛盾しているのよ。普段、ベリルより私を褒めるのは、私が臆することなく自分の意思を通せるからでしょう? なのに、肝心なところで自分の言うことを聞かせようとする。私はベリルじゃないの。お父様の言うことに黙ってしたがうような娘なら、お父様が気に入る娘にはなれないのよ」
「なっ」
「お父様が欲しいのは、私とベリルのいいとこどりをしたような娘だわ。でもそんな娘はいないのよ。私は華やかな場所が好き。夜会でみんなと話すのも大好きだわ。だけど、心が動かない相手と結婚するのは嫌なの。自分の相手は自分で選ぶわ」
はっきりと言ったシンディに、ブラッドリー侯爵は声を詰まらせた。
ふたりの言い合いを察知した参加者が、ひとりふたりと視線を向けてくる。これ以上目立ってしまうと侯爵の立場が無くなるかもしれない。
であればこのまま私室に下がったほうがいいかと、シンディは廊下の方へ足を向けた。
と、手を取ったのはコネリーだ。
「……今のは、私が選ばれたとうぬぼれてもよろしいんですかね」
腰を屈めて、手の甲にキスをする。流れるような仕草に、シンディは見とれた。
「ええ」
「では踊りましょう。最後まで。主催者が席を外すのはお勧めしません」