エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「俺にできるのは、交換の魔法のみ。君が人間の足を欲しいというなら、俺の足と交換するしかないね。大丈夫。交換したあとは、君の体に合うように変化するから」
「本当?」
「ああ。だが、よく考えたほうがいい。人魚の足を捨てることは、仲間たちを裏切ることと同義だ。足を手に入れた後の君を助けるものはいない。それでもやるかい?」
人魚は一瞬ひるみ、ごくりと唾を飲み込みました。
恋とはなんて残酷なものなのでしょう。
人魚はどうしても、人間に……彼と同じ種族になりたかったのです。それがたとえ、慈しみ育ててくれた両親や姉妹たちを裏切ることになったとしても。
「……やります」
「わかった」
魔法使いが、思いつめた様子の人魚に魔法の呪文を浴びせます。
すると、まるで体の中にふぐがいて突然トゲを出したみたいに、内部から突き刺されたような痛みが彼女を襲いました。
ほんの数分、痛みをこらえていると、足の感覚が違うことに人魚は気が付きました。
普段はアメジスト色の尾っぽがある辺りには、細く白い人間の足がついているのです。
代わりに、魔法使いの足は見事な尾っぽに変わっています。
人魚は息をのみ、そして感嘆の息を漏らしました。
「すごい。本当に人間になれたわ」
「ああ、似合うね。君たちは陸でも呼吸はできるから問題はないかもしれないけど、まあ海と陸は勝手が違うからね。気を付けるんだよ」
「ありがとう、さようなら、魔法使い」
そうして、人魚は人間の男のもとに向かいました。
残された魔法使いは、その後も彼女を見守り続けました。彼女の姉のエメラルドの尾をもった人魚と一緒に。
それは何百年も前のおとぎ話。
その魔法使いが、最後どうなったのかは、誰も知りません。