エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「アシュリー伯爵の息子ならダメだと言ったはずだ」
「どうしてよ。由緒正しい伯爵家よ。何の不満が……」
「我が家の格を考えろ! お前の相手としてふさわしいのは、侯爵家以上の家柄の男だ。王太子ならば申し分なかろう!」
「顔も見たこともない王太子様になんて興味ないわ! ヒューゴは仕事だってしっかりやっているじゃない。お父様が一番ご存知なんじゃないの」
ヒューゴは父親である伯爵の仕事を手伝っている。結果として侯爵にとっても部下という扱いになるのだ。
親子喧嘩が始まるとベリルには口を出せない。
それに、シンディとヒューゴが結婚の承諾を父に迫っていたことに驚きを隠せなかった。淡い片思いは、やはり叶うものではなかったのかと思うと胸が苦しい。
「お父様は我が家から王太子妃を出したいだけでしょう? だったらベリルでもいいじゃない」
「ならん! 長女がまだ未婚でいるのにもかかわらず、王太子妃候補として次女を推すなどあり得んだろう」
長女が未婚でもすでに婚約者がいるならば失礼には当たらない。
ベリルには父の意図が見て取れる。シンディは評判の美女だ。それこそ、王太子に見初められても当然なほど。家柄から見ても彼女よりも秀でた条件の女性はいないはずだ。
だがベリルでは、……美しいと言われても、華々しく着飾るほかの令嬢に勝てるとは思えないのだろう。