エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
それから数日、シンディと父の話し合いは、ずっと平行線をたどっていた。
夜会は二週間後、年が明けてすぐだ。ドレスの準備などを考えても余裕があるわけではない。父のいら立ちが最高潮に募っているのを感じ取り、ベリルは自分が叱られているわけでもないのに、恐ろしくて口数が少なくなる。
しかしシンディは違うようだ。真っ向から父親に向かっていく姿はまるで戦乙女と謳われた聖女のよう。
(そんなにヒューゴ様が好きなのね。かわいそうなシンディ姉さま)
だけど、ヒューゴに気持ちが傾いているベリルは、ひそかにホッとする。
自分の好きな殿方の相手が姉というのはつらすぎる。自分の想いは叶うことはないだろうが、せめて相手は別の人がいい。
そして、あんなに必死な姉の姿を知りながら、そんな風に思う自分に落ち込み、罪悪感からベリルはふさぎ込んで部屋に閉じこもっていた。
ある晩、遅くまでシンディと父親の言い合う声が聞こえていた。
そして翌朝、母と朝食を食べている間も、シンディは起きてこない。
「姉さま、大丈夫かしら」
「メイドが部屋に食事は運んでいるわ。すねているだけよ」
「でもお母さま。姉さまにとって、結婚は一生のことだわ。あんなに嫌がっているのなら」