エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

「……侯爵家に生まれた以上は政略結婚の駒になることなど分かっていたでしょう? 貴方たちは王太子様を見ていないから嫌だと思うのかもしれないけれど、結婚相手としてあれ以上の殿方はいませんよ? シンディも会えば必ず心を変えます。そのくらい、いい方だわ。私が心配しているのはむしろあなたの方よ。ちゃんと夜会でいい人を見つけないと。シンディは夜会のあと必ず誰かが花や手紙をよこしたものだけど、あなたにはひとつもないもの」

「えっ……す、すみません」

やぶへびだ。
誰とも長くは話さないのだから、そのあと声がかからないのも当たり前なのだが、それでは何のために夜会に出ているのかと言われても仕方ない。これ以上お小言を言われるのも嫌なので、その後、ベリルは部屋にこもって刺繍をすることにした。

軽く二時間ほど過ぎただろうか。
刺繍に飽きてあくびが出てきたころ、扉をノックする音がする。

「はい?」

ベリルが扉を開け、外をうかがうと、そこに立っていたのは暗い顔をした姉だった。

「シンディ姉さま?」

「……ベリル」

「どうしたの。お入りになって」

姉を部屋に引き込み、椅子に座らせる。すっかり意気消沈した様子のシンディに、ベリルは「メイドにお茶を持ってこさせましょう」と言ったが、首を振った。
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