エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
それは、視界が真っ白のなるくらいの眩しさで、やがて眼が慣れてきたとき、ベリルは信じられないものを見た。

「……私の顔?」

目の前に座るのは姉のシンディだったはずだ。
なのに、シンディの服を着ていながら、そこにある顔は、鏡で見るベリルの顔なのだ。
そして彼女も「……うそ? 私がもうひとり」とつぶやいている。

ベリルは慌てて鏡をのぞき込んだ。そこに映っているのはたしかにシンディだ。
すっと通った鼻筋、ぱっちりした瞳。だけど、よく見れば髪の色はベリルのまま。よく似ているけれどくすんだ金髪だ。

『交換の魔法』

ぼそりと聞こえた声は、ベリルのものでもシンディのものでもない。

「きゃっ」と声をあげたシンディはエメラルドのネックレスを離した。

「ここから声がしたわ!」

信じられないことだがベリルもたしかに聞いた。
シンディでもベリルでもない、男のもののような声は、たしかにこの首飾りからしたのだ。

しかしそれからしばらく黙って見つめていても、もう首飾りは何も語らない。

「魔法って言ったわよね? ……魔法で顔が入れ替わったの? だったらねぇ、戻して? シンディ姉さま」

信じられないことだが、実際に顔が変わった以上は信じるしかない。
鏡を見たシンディは声を震わせてそれに見入っている。

「嘘みたい。本当にベリルの顔。……これが、この魔石に秘められた魔法?」

シンディは唇を噛みしめながら何かを決意したように顔をあげる。ベリルの顔のはずなのに、中身がシンディなだけで美しく見えてくる。意思の強さを感じさせる瞳が、まっすぐにベリルを捉えた。

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