エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

「シンディ姉さま?」

「違うわ。シンディはあなたよ。ベリル、そうしましょう? 私たち、顔が入れ替わってしまったんだもの。もうお互いがお互いとして生きるしかないわ。あなたになれば私はヒューゴと結婚できるの。お願い」

「そんな……私だって」

ヒューゴが好きなのだ。降ってわいた結婚話に実感は沸かないけれど、自分にも彼が手に入ると思えば、欲は湧いてくる。
しかし、ベリルの姿をしたシンディは口端を曲げたまま、笑った。

「あなたが望もうと望むまいと、もう顔は入れ替わってしまったんだもの。諦めるしかないわ。ね、ベリル。お願い」

「待って、魔法でこうなったんでしょう? だったらもう一度同じ魔法を使ってくれればいいじゃない」

「私は魔法使いでも何でもないわ。この首飾りの魔石がしたことでしょう? 同じように願ったって、今度は魔石は光りもしないわ。そうよ。諦めるしかないの。ね、ベリル。私が困ったら、あなたはいつだって助けてくれたじゃない」

「私は……」

姉の必死の声に、ベリルは息をのむ。けれど、変わったのは顔だけなのだ。
髪の色も、声も、ベリルのまま。

「髪の色や声でバレるわ。身長だって私のほうが低いじゃないの」

「髪は似た色だもの。いくらでもごまかせるわ。声だって、身長だって、姉妹の私たちはそこまで違うわけじゃないもの。大丈夫よ」

「でも……」

たしかにふたりの違いは、他人との違いに比べれば些細なものだ。
だが全く同じなわけじゃない。父や母だって話しているうちに気づくに決まっている、家族なのだから。
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