エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
執事について部屋を出て、黙って歩いていると、心配そうな視線を向けられた。
「元気がありませんね。お嬢様」
「そう、ですね」
「結婚のお話がショックなのはわかります。ですが、侯爵家としては願ってもない縁談でしょう。王家と縁戚になることがどれだけ素晴らしいことか。ましてお嬢様にお子ができれば、やがて国をしょって立つ存在になるのですよ。どうか、ご乱心なさらずご自分のため、ご家族のため決断してくださいませ」
とつとつとした話し方は、昔から変わらない。シンディがいたずらをしたとき、よくこんな感じで怒られていた。次女であるベリルは、それを見て自分はいたずらなどするまい、と思ったものだ。
(……シンディ姉さまは色々なことをしでかしたけれど、その分みんなと仲がいいのよね)
叱られることはベリルより多かったが、シンディは懲りることなく人の中に入っていく。基本的に社交的なのだ。
そして結果、お利口なだけのベリルより、人と仲良くなる。
王太子が開催する夜会の話を持ち掛けられ、父がシンディでなければだめだというのは、長女だからというだけではないだろう。人を恐れず、人の中に溶け込める才能が、ベリルよりもシンディの方にあるからだ。
問題を起こすことはあるかもしれないが、彼女ならば必ず夫の愛を手に入れ、王城で受け入れられるという自信が父にはあるのだ。
(なのに、私が代理なんてできるの?)