エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ぴしゃりと言われ、ベリルの胸にも暗い影が落ちる。
きっとシンディはずっとこんな風に言われ続けてきたのだろう。それで思い余って、入れ替わりたいなどと願ってしまったのだ。

「王家とつながりを持てれば幸いですけれど、多くの人の中から選ばれるのでしょう? ねえさ……私が選ばれない可能性のほうが高いではありませんか。もし王太子様が私を選ばなければ、お父様はヒューゴ様との縁談を認めてくださるのですか?」

「まさか。別の相手を用意する。……私はヒューゴが好かんのだ」

それには疑問だった。
ヒューゴは非常に快活で周囲からの評判はいい。アシュリー伯爵だって立派な人物だ。

「お父様はアシュリー伯爵と親しくなさっているのに?」

「父親のほうは愚直なほどまじめだが、ヒューゴはそうでもない。できることなら関わらせたくはなかったが、友人の息子ならば仕方ないとも思っている」

そこでまた疑問が生じる。
シンディの話では、ヒューゴにベリルを嫁がせるという話になっていたはずだ。

「そんなに嫌ならなぜベリルをヒューゴに嫁がせようとするの?」

探るように聞いてみたら、父親ははあ、と大きく息をついた。

「そうすれば諦めるだろうと思ったのだ。お前だって、かわいい妹の婿を奪うつもりはないだろう? あの子が、唯一親しくしているのがヒューゴだというじゃないか。誰からも手紙も誘いも来ないのだぞ? 譲ってやるのが筋だ。伯爵家も、侯爵家の娘をひとりもらえるならば構わない、と言っていた」

「え……」

それはつまり、ヒューゴが承諾したということだ。
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