エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「ヒューゴ様が……ベリルでいいとおっしゃったの?」
「お前のことは諦めると、私に約束した。……その程度の男なのだよ、シンディ。お前にはもっと意思が強く頭のいい男が似合う」
「お父様」
「明日は朝から衣装合わせだ。必ず起きているように」
それだけだ、と言われ追い出される。
今の会話で、父がベリルとシンディ、どちらを大事に思っているかが分かってしまった。
「つまり、私はどうでもいいのね?」
気に入らない男に嫁がせることも厭わないのだ。姉さえ、幸せな結婚をすればそれでいいと。
心もとなさを感じて、体を自身でギュッと抱きしめる。ベリルの部屋に戻ると、既にシンディが寝間着に着替えベッドで寝ていた。
もうすっかりベリルとして生きる気満々らしい。
仕方なくシンディの部屋に行き、侍女に着替えを手伝ってもらい、ベッドに横になる。
顔が変わったからといって、中身はベリルのままだ。
夜会に出たとしても、おそらく王太子様に好かれることなどないだろう。
そして、好きな人は自分の顔をした姉と結婚するのだ。ベリルはこのままシンディのようになれるよう努力しながら生き続けなければならない。
「これ、最悪じゃないかしら……」
横になって考えていると不安が襲ってきて涙が出てくる。
まして、ヒューゴがベリルとの結婚を了承したという話を聞いた今は、心が落ち着かなかった。
(入れ替わりなんてなければ、……私は幸せになれたはずだったのに)
同じ屋敷の同じつくりのベッドなのに、部屋に充満する香りがシンディのものだからか落ち着かない。
未来の想像がつかない不安を抱えたまま、ベリルは浅い眠りについた。