エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

 翌日、シンディの顔をしたベリルを起こし、身支度の手伝いをした侍女は、不思議そうな顔をした。

「お嬢様、髪質、少し変わりました?」

「え?」

「御髪の色が少しくすんだような……。髪に艶を与えるクリームがございますので、後で持ってまいりますね」

「ええ、ありがとう」

ベリルは苦笑したまま、朝食に向かう。
ベリルの顔になったシンディもその場にいたが、あちらはベリルであることを完全に受け入れていた。

「ごめんなさいね。ジャムをとっていただけるかしら」

普段とは微妙に違う言い回し、遠慮が前に出たような話し方はベリルの特徴だ。シンディは上手にベリルになり切っていた。今日はドレスもベリルのものを着ているため、ほんの少し髪の輝きがいいことを覗けば、ベリルそのものに見える。
シンディとなったベリルのほうはそこまで割り切れているわけではなく、いつものシンディと比べれば黙りこくっていて感じが悪いはずなのだが、おとなしいのは結婚が嫌なせいだろうと両親からは思われているらしく、疑問に思われることはなかった。

食事を終えると、衣裳合わせだ。
父はシンディだけを別室に呼び、金髪の仕立て師に引き合わせる。仕立て師は男性で、助手と思われる女性がついていて、着替えるときは彼女の手を借りながら衝立で仕切られた場所を使うらしい。
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