エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「時間があれば一から仕立てたかったのだが」
「でもお嬢様のドレスは質のいいものが多いですからね。ちょっと手を加えるだけでとても豪華に見えますよ」
父親と仕立て師の間で軽快なやり取りが続く。
ベリルは言われるがままに着せ替え人形となり、父親が納得する形のドレスに直す話はあっさりと決まった。
「一週間後、お持ちします」
「夜会までぎりぎりだな。出来次第すぐ持ってきてくれ」
「もちろんですとも」
気の乗らないドレスの採寸が終わり、ベリルはもう一度シンディと話そうと、彼女を探した。
「ベリルお嬢様ならお出かけになりました」
「どこに?」
「ヒューゴ様のところとか……」
ベリルの胸がツキンと痛む。
ふたりは婚約者という間柄になるのだから、今後は自由な行き来も増えるのだろう。
自分の顔ではなくなっても、シンディはヒューゴに愛されればそれでいいのだろうか。
「では、……私も出かけてくるわ」
「お供いたしましょう」
「大丈夫。遠くには行かないわ。せいぜい孤児院までよ。散歩がしたいだけなの」
ひとりになりたかった。
この顔になってしまった以上、安らげる自室だったベリルの部屋には自由に入れなくなった。ベリルがベリルとして安らげる場所はもうない。