エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ならば、とベリルは外に飛び出した。
良家の子女がひとりで出かけることはあまり良く思われないが、できないわけではない。
街には警備隊が巡回しているし、今は真昼間だ。
グレーのコートを着て屋敷を飛び出したベリルは、とぼとぼと孤児院への道を歩いた。
知っている道がほかにないのだ。彼女が徒歩でいくところは限られている。
じきに孤児院の門が見えてきて、敷地の端からは子供たちの歓声が聞こえる。
「おもたーい」「そっち持って」
聞こえてくる声は無邪気な遊びの声ではない。子供とはいえ働いて役に立たなければ生きていけないのだ。
小さいころから労働がともにある子供たちは逞しい。ともすればベリルよりも力があるかもしれない。
仕事でさえも楽しめる子供の柔軟さが今のベリルには羨ましかった。
(にぎやかね……。私たちにもこんなときがあったはずなのに)
社交界に出るようになるまでは、シンディとベリルも無邪気に遊んでいた。
シンディが外交的で、ベリルが内向的なのは変わらなかったけれど、子供の頃はふたりを比較する目が少なかった。
社交界に出て、人がシンディを褒めたたえるたび、ベリルの胸に去来したのは仄暗い嫉妬だ。
華やかで、誰とでも会話を楽しめるシンディ。誰も彼もシンディの前では笑顔でいるのに、ふとベリルと目が合うと気まずく笑うだけ。頑張って話そうとしても、会話は全然つながらず、結果ベリルは食に逃げることになる。