エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
誰にでも好かれるシンディが羨ましくてたまらなくて、シンディになれたらと思ったことは何度もある。
だけど、顔だけシンディになったところで、結局何も変わらない。
今日だって、朝から屋敷の誰とも会話は弾まず、気を遣わせただけだ。
シンディと自分の本質の違いが浮き彫りになるばかりで、もっと悲しくなった。
「きゃあっ」
悲鳴に似た子供の声がした。
ベリルは顔をあげ、孤児院の中を窺う。子供たちは納屋から孤児院に向かって走り、「シスター!」と騒いでいる。
ベリルは気になってそっと中へ入った。
「どうかしたんですか?」
「あ、これは、シンディお嬢様」
顔見知りのシスターがシンディをみつけ、子供を抱き着かせたまま近寄ってくる。
「なんでも、納屋に男が寝ていたそうです。お嬢様は危ないから近づかない方がよろしいですわ」
「男の人? でも寝ているんでしょう?」
たしかに怖いが、不審者だというならばなんとか対処しなければならないのではないだろうか。
「院長先生を呼んでまいります」
ひとりのシスターがそう言って駆け出していく。
ベリルはもうひとりのシスターと、一番年かさの男の子を呼び、一緒に覗いてみた。
納屋にはいろいろな道具と、冬を超すための薪と干し草が置いてある。
その干し草の上に、ぼろ雑巾のような色のコートの男が、寝そべっている。
そしてベリルはこの服装に見覚えがあった。クリスマスの日に、この近くでぶつかった男だ。