エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
薄汚れた肌、ぼさぼさの黒緑の髪。寒いのかコートの中に身を縮こませるようにして眠っている。
一瞬、父が持ってきたという人相書きのことも頭をかすめたけれど、泥棒が孤児院で間抜けに眠ってしまうなんてことがあるだろうか。
ベリルは直感を信じ、彼を起こしてみることにした。
「お嬢様、近づいてはいけませんわ」
「大丈夫よ。この人、見たことがあるの。……もし、起きてくださらない?」
シスターたちは怯えていたが、ベリルはためらいもなく彼の体をゆすった。
「……う、うん?」
「起きてください。あなたは誰ですか?」
「え……うわっつ。あれ? あ、寝てしまったのか。あれ、貴方は……」
男は茶色の瞳でまじまじと彼女を見つめる。
ベリルはやはり、と思う。こんな格好をしているのに、言葉遣いがとても丁寧なのだ。
「ここは孤児院です。身寄りのない人間が身を寄せるところではありますが、あなたは孤児院で受け入れるにはいささかお年が上のように思えます。なにか孤児院に御用ですか」
「え、あ、いやっ。違うんだ。その」
浅黒い顔が真っ赤に染まる。恐ろしく目つきは悪いけれど、やはり悪人には思えない。