エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

 この国では、慈善事業に熱心な貴族こそ裕福であり、その爵位を受けるのにふさわしいと考えられる。そのため、慈善活動は貴族の子女にとって仕事のようなものなのだ。
クリスマスの日、姉妹は王都にある父侯爵が支援している孤児院を訪れていた。
孤児院でもクリスマスにはささやかな祝いの席が設けられる。毎年、姉妹はそこで屋敷の料理人が作ったお菓子を配るのだ。
この孤児院は母方の伯母が院長をしていて、世話人は女性のシスターが多く、たまに荷運びを近所の男性に頼む程度で、子供以外の男っ気がない。
姉と比べられることがない孤児院は、ベリルにとっては癒しの空間だった。

「シンディ様、ベリル様、ありがとうございました。さようなら」

多くの子供たちに見送られ、姉妹と、護衛役の従僕、荷物持ちのメイドが孤児院を出た。
孤児院は屋敷からそう遠くないので、歩いてきたのだ。前を歩く姉妹の邪魔をするまいと、メイドと従僕は一歩下がっていた。

孤児院からの見送りの視線が解かれ、シンディはホッとしたように息を吐き出した。

「孤児院の子供たちって、どうしてあんなに群がってくるのかしら」

「お菓子を食べれることもあまりないんでしょうし。仕方ないんじゃないかしら。喜んでくれるんだからいいじゃない」

「でもあの子たちの手は汚れているでしょう? 見て、このコート。出したばかりなのに汚れがついてしまったわ」

カシミア製のグレーのコートは、父からのクリスマスプレゼントだ。もらったばかりのものが汚れてしまえば不機嫌になる気持ちもわかる。ベリルも色違いの同じものをもらったが、孤児院は冷えるからと厚手の古いコートを着てきていた。

「だったら帰ってから私のと交換しましょうよ」

「え? ……でも、いいの?」

「いいの。シンディ姉さまは肌が白いから、白いコートのほうが似合うわ」

「ありがとう、ベリル!」
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