エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
院長の到着を待つ間、男は自らの体についた干し草を払っていた。
何度かベリルに視線を向け、やがてコートに付いたすべての草が払われると、おもむろに問いかけてきた。
「あの、……先日、一緒におられたお嬢さんは?」
「ベリルのこと? 私の妹です。今日はほかの場所に出かけているの」
「そうか。コートを汚したことが気になっていて。いつか弁償するために、名前を教えてもらおうと君たちを探していたんだ。ここなら、いつかまた来るかと思って……」
ボロボロの身なりで、そんなことを言われても困る。ベリルのコートを買うくらいなら自分のコートを新調してほしいくらいだ。
でも、美しいと評判のシンディを前にして、ここにいないベリルのことを思い出してくれたのは嬉しかった。それがたとえ、会話の口実に過ぎないとしても。
「コートのことは気になさらないでください。こういう言い方をすると失礼かもしれませんが、私たちには他にも衣服はあるのです。そんなことにお金を費やすのならば、あなたのその薄いコートをもっと温かいものに変えたほうがいいわ」
「あ……」
「それに、見も知らぬ男性がうろうろしていれば子供たちがおびえます。どうかあの時のことはお忘れになって」
淡々と含めるように言うと、アンドリューは目をぱちくりとさせた。