エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「浮浪者といった感じね。帰るところはあるの?」
「ある。……見た目が悪いのは申し訳ないと思っている。しかし孤児院に危害を加えるつもりはないのだ」
「あら、意外と紳士ね。まあいいわ。あなたを部屋に入れるのはちょっと……だわね。ご用件は何だったの」
「用件はもう済んだ。このお嬢さんにお礼を言いたかったんだ。だが、もしよければ、この失礼のお詫びに何か手伝わせてほしい」
「手伝い?」
「何でもいい。孤児院では大人の男手は足りないのだろう。薪割りでも、小麦運びでも。明日から昼の二時間ここに来るからこき使ってくれればいい」
突然の申し出に、院長は戸惑っていたが、シスターたちは目を輝かせていた。冬の労働がきついのは誰でも一緒だ。
「では、お願いしますわ」
「これるのは一週間だけだが。精いっぱいやらせてもらう」
ベリルにしてみれば、そこまでの労働が必要な行動ではなかったように思う。コートの汚れを気にしすぎるところといい、この人は見かけによらず人が良すぎるのではないだろうか。
「もし、お嬢さん方も見に来てくれたら嬉しい」
そんな風に言われて、不覚にも胸がドキリとした。
「では、お菓子を作ってまいりますわ」
反射でそんなことを言ってしまったことに自分で驚きつつ、お菓子のレシピを思い出しながら歩く帰り道は足取りも軽かった。