エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ヒューゴを選ぶために、シンディはあらゆるものを犠牲にしてきた。
もっと条件のいい縁談だっていくつもあったのに断ってきたのだ。なのに、相手が王太子だからというだけでこんなにあっさり引き下がられるなんて。しかも、王太子の結婚相手候補と言っても、数人集めて花嫁選びをすると言われただけで、シンディに決まったわけでもない。
「とにかく入って。今朝届いたばかりの茶葉があるんだ。君に一番に飲ませられるかと思うと嬉しいよ」
目新しいものが好きなヒューゴらしい喜びようだ。
シンディは自分がベリルの顔をしただけのシンディであること、この魔石が本当に魔法を使ったことを話そうと思ってやって来た。けれど、今の会話でそんな気は薄れてきていた。
ヒューゴは一体、ベリルに対して、自分のことをどう話すのか。
怖いもの見たさが先に立って、しばらくはベリルとして様子を見ようかと考え始めたのだ。
ヒューゴはメイドに入れてもらった紅茶を彼女に勧める。
おいしくて顔をほころばせたら、彼は顔を覗き込むようにして笑った。
「笑うとかわいいんだから、もっと顔をあげているといいよ、ベリル。前にも言ったろ? シンディは薔薇のような美しさ。君はスノードロップのようだって」
「え?」